外国人がもはや学ぶ必要のないキリル文字:アルファベットが46文字→33文字になったわけ

キラ・ポリュドワ
キラ・ポリュドワ
最初、キリル文字は46文字あったが、今、ロシア語には33文字しかない。これは、時が経つにつれて必要がなくなり、一部の文字が消えたからだ。どの文字が、どのような理由で消えたのか、お話ししよう。

「Ѣ」(ヤーチ)。

 例:Алексѣй(アレクセイ)、цѣль(ツェーリ〈目的〉)、апрѣль(アプレーリ〈4月〉)

 現代ロシア語では、この文字は、「знать на ять」(ズナーチ・ナ・ヤーチ)という慣用句に残っている。つまり、「すごくよく知っている」、だから聞かれれば直ちに答えられる、といった意味だ。この文字の発音はごく単純で、口を狭めて「Э」を発音するような音だ。しかし、使用の規則は複雑で、多数あり、しかも例外も多かった。革命後の1918年にこの文字がついに消えたとき、ギムナジウムの生徒たちは、安堵のため息をついた。

「Ѳ」(フィータ)。

 例:ариѳметика(アリフメチカ〈算数〉)、мараѳонъ(マラフォン〈マラソン〉)、орѳографія(オルフォグラフィア〈綴り方、正書法〉)

 「f」の音を表す「Ф」(フェルト)の「姉妹文字」だ。通常、ギリシャ語起源の単語に、「Ѳ」(フィータ)を用いた。一時期は「Ф」に取って代わったこともあったが、1918年に「Ф」が「Ѳ」に“勝利”し、最終的に「встать фертом」となった(「Ф」の形に、両手を腰に当てて、気取って立つ、という意味である)。そして、ロシア語アルファベットで唯一の位置を占めるようになった。「Ѳ」は、作家ゴーゴリお気に入りの「фитюк フィチュク」(愚か者、怠け者)という単語に名残をとどめている。「Ѳ」は、形が尻に似ており、「фитюк」は、この文字にちなむと考えられている。

「Ѵ」(イージツァ)。

 例:Паѵелъ(パーヴェル)、мѵро(ミロ〈聖油〉)、сѵнодъ(シノド〈聖務会院〉)

 ギリシャ語からロシア語に入った。文字「Y」(ウプシロン)に由来する。「и」(i)と読まれ、時には「в 」(v)と読まれることもあった。1918年に最終的に廃止されるまで、この文字は、幾度かアルファベットから外されたり戻されたりした。しかし、単語ではなく、語句において最も頻繁に用いられた。例えば、「прописать ижицу」(イージツァを書く→厳しく説教する、鞭打ちで罰する)という表現は、革命前のすべての学童によく知られていた。授業をきちんと習得しなかった者の背中に、木の枝の鞭が、ちょうどこういう形の跡を残したからだ。

「I」(десятиричное И〈desyatirichnoye I〉十のイ) 。

 例:Iерусалимъ(イエルサリム〈エルサレム〉)、исторія(イストリア〈歴史〉)、мiръ(ミール〈世界〉)

 「десятеричное 十の」は、この文字が数字の10も表していたためだ。小文字は、1つまたは2つの点を付けて記され、大文字は、点を付けずに「i」のように発音された。1918年に廃止された。

「Ѧ」(юс малый〈yus malyy〉小さなユース)。

 例:землѧ(ゼムリャ〈土地〉)、мѧгкїй(ミャーヒキー〈軟らかい〉)、недѣлѧ(ネデーリャ〈週〉)

「Ѫ」(юс большой〈yus bol'shoy〉大きなユース)。

 例:рѫка(ルカー〈手、腕〉)、дѫбъ(ドゥーブ〈樹木のオーク〉)、ѭтроба(ウトローバ〈腹、胎、子宮〉)。前に「I 」が付くバリエーションがある(Ѩ, ѩ, Ѭ, ѭ)。

*両者は、大文字と小文字ではなく、別の文字なので注意しよう。

 文字と音の美しさ(鼻音で発音される母音)にもかかわらず、「ユース」がロシア語に保たれていたのは17世紀までであり、その後は廃止されて、二度と復活することはなかった。また、鼻音も失われた。「小さなユース」は「Я」、大きなユースは「У」となった。

「S」(зело〈zelo〉ゼロ)。

 例:ѕвѣзда(ズヴェズダ〈星〉)、ѕвѣрь(ズヴェリ〈獣〉)、ѕлакъ(ズラク〈草〉)

 起源は、ギリシャ語のシグマ「Σ」だ。発音は、「軟らかい」「dz」で、後に「z」となった。短期間、「З」に取って代わったことさえあったが、その後「З」が復活し、「S」は、1735年に科学アカデミーの決定により廃止された。

「Ћ」(дервь〈derv'〉デルフィ)

 この文字は、ギリシャ語から借用した単語における「г 」(g)の軟音を表すために必要だった。しかし、あまり使われず、また、あまりにも早く消滅したため、現在ではその使用例を挙げることさえ困難だ。

「ѡ」(オメガ)。

 例:краснѡ глаголати(クラスノ・グラゴラチ(見事に話す))、къ кедрѡмъ(ク・ケドロム〈杉の木に〉)、безъ двухъ рѡгъ(ベズ・ドゥヴーフ・ログ〈2本の角がない〉)

 これは、通常の「o」の音に似ていたが、単語の頭や語尾、そして前置詞「от」(~から、~のために)にもしばしば使われた。この文字は、ピョートル1世(大帝)によって廃止され、誰もが安堵した。

「Ѯ」(кси クシ)。

 例:Ѯенѧ(女性の名前「クセニヤ」)

「Ѱ」(пси プシ)。

 例:ѱаломъ(プサローム〈詩編、聖詠〉)、ѱалтірь(プサルティリ〈聖詠経〉)

 ご想像のとおり、どちらもギリシャ語のアルファベットから取られているが、スラヴ人は、ギリシャ語の人名や用語を伝えるためにのみ使用していた。そのうちの一つは、現在も広く使われる「психология 心理」だ。どちらの文字もピョートル1世によって廃止された。

「Ҁ」(Коппа コッパ)

 謎の文字だ。ごく稀にしか使われず、はるか昔に廃れてしまったため、その用途についてはほとんど知られていない。ギリシャ語のアルファベットから派生したものの、必要がなくなったので、すぐに「死文字」となってしまった。

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