ソ連時代の『おいしくて健康的な食事』はどのようなものだったのか
ソ連時代のベストセラー料理書は『美味しく健康的な食事の本』だった。
ソ連時代の家庭には、家族や知人から伝え聞いたレシピを書き留めた「手書きの料理ノート」が必ずといっていいほど存在した。主婦たちはそこに工夫を重ね、自分なりの味を育てていった。
だが、料理に携わる人々の間で特別な存在感を放っていた一冊がある。複数の専門家が編集した料理書『美味しく健康的な食事の本』だ。初版は1939年に刊行され、以後たびたび増刷された。1952年には50万部を発行し、戦後の累計発行部数は800万部を超える。まさに国民的ベストセラーである。
この本が広く支持された最大の理由は、その実用性にあった。掲載されたレシピは、比較的入手しやすい食材を用い、手順は簡潔明瞭。スープ、カツレツ、ビネグレット、コンポートなど、今日でもロシアの家庭で親しまれている定番料理の多くは、本書を通じて全国に浸透した。
工場労働と家事を両立させていた当時の女性たちにとって、この料理書は理想論ではなく、日常を支える「現実的な指針書」だった。
現代の読者から見れば、缶詰や濃縮食品など加工食品の多用に驚かされる部分もあるだろう。一方で、季節に応じた献立の提案や、治療栄養学の考え方に基づく食事構成などには、今なお学ぶべき視点が多い。