シチーはいかにしてロシア料理のシンボルとなったか?
ロシアの食卓に幾百年
このスープは少なくとも10世紀からルーシで作られてきた。多くの歴史家は、ビザンツ帝国との交易によってロシアにキャベツがもたらされ、その栽培が始まったことがスープの誕生に寄与したと考えている。キャベツは栽培が容易かつ冬季の保存も可能で、安価で料理もボリューミーになることから、急速にロシア各地に広まった。1702年にモスクワを訪れたオランダの旅行家コルネリス・デブルーインは、「平民は日に2度キャベツを食べる」と記している。興味深いのは、他の品種(カリフラワーや紫キャベツ)も知られていたにも関わらず、広まったのは主に白キャベツだったことだ。キャベツの利用法は様々で、乾燥、発酵、かまどで蒸し煮、そしてシチーがあった。
このスープの名称「щи」の起源は、古ロシア語の「шти」、すなわち「腹を満たすもの」からきている。つまり、シチーとは「腹を満たすもの」に近い。もっとも、一部の歴史家は「シチー」という語は「сок(液、果汁)」や「щавель(スイバ属の植物)」と共通の語根を有するとも考えている。スイバもシチーに用いられることがあるので、一定の説得力がある。
ロシアのかまどの魔法
シチーの食べ応えはキャベツのおかげでもあるが、ロシアのかまどが果たす役割も大きい。シチーはスープを煮るのではなく、かまどで長時間かけて蒸し煮となるので、具材は全てとろとろに柔らかくなり、味が溶け合って調和する。シチーは長時間保管しても味が落ちず、むしろ具材に味が染みて美味しさが増す。
現在ならオーブンやスロークッカーといった調理器具を使って同様の熱処理が可能だが、普通のコンロでも調理可能だ。
ここでアドバイスが1点:シチーは夕方につくり、翌日まで寝かせておくのが良い。黒パンとスメタナを添えて出すのがベストだ。
キャベツばかりがシチーじゃない
シチーの素晴らしさは、その万能性だ。キャベツの他にセイヨウイラクサ、スイバ、アカザなどを使用することがある。例えばセイヨウイラクサを用いたシチーのレシピは、1779年刊行のセルゲイ・ドルコフツェフの著書『調理メモ』にも登場する:セイヨウイラクサをブランチング処理して卵、牛肉、サーロを加えて作る。スイバから作るもの(「緑のシチー」)は、現在でも夏のスープとして人気がある。
シチーを作るにはキャベツの他に何が必要か?これは、どのような具材を用意できるかによって、幅がある。農家でも作られ、宮廷でも作られたシチーは、水で煮ただけの質素なものもあれば、肉や魚やキノコが入ったものもあった。
干しキャベツから作るシチーもあれば、塩漬けキャベツから作るシチー、冷凍キャベツで作るシチーもある。どれもシチーには変わりなく、これぞ正典、というレシピは存在しない。シチーはいつの時代も、あらゆる階層の人々の食卓に上がった。「ヨーロッパへの窓」を開いたピョートル1世さえ、昼食にはごく普通のロシアのシチーを好んだ。
シチーが誕生して幾世紀。時代が変わっても、シチーはロシア人の食卓に共通する一品なのだ。