ソ連の典型的な団地の中庭とは?

ナターリア・ノソヴァ
ナターリア・ノソヴァ
用心深いお婆さんたち、ゲームに興じるお爺さんたち、創意工夫に満ちた自動車オーナー、そして、団地の中庭で社会と人生を学ぶ子供たち。

1.棟外のベンチのお婆さんたち

 ベンチのお婆さんたちが孫の見守りや、世間話や噂話にばかり明け暮れていたと考えるのは間違いだ。実際には、スマート見守りカメラとも言うべき機能を担っており、1日の大半を、周辺をスキャンして過ごしていた。その注意深い視線によって空き巣や軽犯罪が減少し、重犯罪が抑止され、そして不法行為があった場合には目撃者や証人にもなった。

2.窓から顔を出す1階の住人

 ベンチやゲームテーブルを囲む仲間の輪に加わらないお爺さんやお婆さんたち。たいていの場合は、グループから外れたか、あるいは何らかの理由で都合が付かなかったケースである。それでも、中庭社会に参加したい意思はある。母親たちが家事をしながら子供たちの様子を監視したい、という場合もある。

3.絨毯をかけて埃を叩くための鉄棒、洗濯物を干すために張られたヒモ

 ここは完全に「大人」のエリア。お婆さんたちは、子供たちが汚れた手で触ったり、ボールを当てないよう監視していた。洗い立ての洗濯物が汚れてしまえば、ご近所同士のいさかいにもなりかねないのだ。

4.周囲を散歩する愛犬家たち

 ソ連時代、犬の糞を片付けるという習慣は無かった。そのため、愛犬家たちは団地の中庭より外のエリアに追いやられた。子供たちが遊ぶ場所に糞をさせるわけにはいかない。

5.ブランコ、回転遊具

 一見安全そうな遊具も、子供の旺盛な意欲にかかると、エクストリームな装置に早変わりする。ブランコでは「ソルヌィシコ(太陽)」という、360度回転する技が行われた。それが無理なら、めいっぱい漕いだブランコから、どれだけ遠くまでジャンプできるか競った。カルーセルなどの回転遊具は、とにかく高速で回転させ、さながら宇宙飛行士の訓練施設の様相を呈した。

6.自動車とオートバイ、愛車のオーナーたち

 平日の夕方や休日ともなると、オーナーの中年男性、そして興味津々の男児や青年たちが自動車の周りに集まって来る。たいていの住民たちは、開いたボンネットの影や、車の下から突き出た足を見て、どこの誰なのか分かる。

7.鳩小屋

 鳩小屋そのものは公共のものとされていたが、鳥は住民の誰かの所有物だった。多くの場合、美しい純血種の伝書鳩だった。鳩小屋の主は毎日、団地の屋根(3~5階建てが多い)に上り、リボンをつけた長い棒と指笛を駆使して伝書鳩の群れを操る。あまり早く小屋にもどってダラけないよう、あたりを周回飛行させるのだ。

8.キノコ屋根の砂場

 ほぼ、どこの団地にもあった。夏には子供たちに日陰を提供し、雨が降れば雨宿りに、日も暮れると、若者たちのロマンチックな語り合いの場になった。夜になると周辺の酔漢が集まってくることもあったが、たいていの場合、用心深い住民によって追い払われた。

9.大人用の体操器具、子供用の肋木

 健康志向の男たち、まれに女性たちも、こうした器具で朝晩トレーニングに勤しんだ。昼の間は子供たちが鈴なりになって、ベンチ代わりや鉄棒遊びに使った。

10.ヤングママと乳母車

 ヤングママたちも、団地の中庭周辺で乳母車を押す。遊具の周辺だと、子供たちの歓声で赤ん坊が目を覚ましてしまう。犬の散歩コースだと、犬の鳴き声で起きてしまう。そのため、できるだけ静かな場所を選びつつ、いざ赤ん坊が目覚めて泣きだしたらすぐに帰宅できるよう、丁度良い距離を意識した。

11.ドミノ、チェス、チェッカー、バックギャモン、トランプに興じるお爺さんたち

 お婆さんたちのグループと異なり、男オンリーのこのコミュニティには時折、中年男性や若者が混じることもあった。ベンチのお婆さんグループと違って、ひたすらテーブルゲームとその関連の話題に終始するのが特徴。孫の見守りや周辺の監視などは、彼らの手に余る課題だった。

 

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