ロシアで祝われた3つの夏のスパス

キラ・リシツカヤ (写真: Photoagency Interpress, Tom Mueller/imageBROKER.com/Global Look Press)
キラ・リシツカヤ (写真: Photoagency Interpress, Tom Mueller/imageBROKER.com/Global Look Press)
8月は、夏の最後の月。最初の収穫があり、民衆の伝統と教会の伝統が融合した祭日が3つもある月だ。

 収穫を神に感謝して供物を捧げる伝統は、古い異教の時代から続いた。ルーシのキリスト教化以降、農耕儀礼の一部はキリスト教の祭事と上手く融合した。そうした好例が、夏の3つのスパス(救世主祭)である。8月14日は蜜のスパス、8月19日はリンゴのスパス、8月29日はクルミのスパス。スパス、という語は「スパシーチェリ」(救世主、イエス・キリストのこと)から派生している。祭日は、農業の儀礼と魂の救済の両方の側面を持つ。

蜜のスパス

パブリックドメイン F. V. シチョフ、聖水式、1916年
パブリックドメイン

 8月14日、正教徒は救世主祭と至聖生神女祭を祝う。この日は最初のハチミツが収穫され、聖母就寝祭の精進が始まる。養蜂者たちは収穫したばかりのハチミツを教会に持ち寄り、祝福を受ける。その後、ハチミツを食べ始めて良い。一部は教会に寄付し、一部は貧者に施し、隣人や親類にも配って、一部は自分用に残した。

 また、この日は多くの教会で水を清める祈祷が行われた。昔はこの日に川や泉、井戸の水を清め、人々は水域で水浴びをして病からの救済を願った。水浴シーズンは8月14日で終了する。

リンゴのスパス

オムスク州立美術博物館(M. A. ヴルベリ記念) N. ボダレフスキー、マロロシアのリンゴのスパス
オムスク州立美術博物館(M. A. ヴルベリ記念)

 8月19日は民間暦では秋の始まりとされ、ロシア正教では主の変容(顕栄)祭が祝われる。これは12大祭日の1つで、キリストと聖母の軌跡にまつわる祭日である。

 ハチミツの場合と同じく、この日は教会ではリンゴやナシ、プラム、ブドウなどの果実の清めの儀式が行われる。その後、リンゴなどを食べ始めて良い。古くは、収穫した果実をまず教会に持ってきて清め、その後貧者に施したり、子供をはじめ希望者に分け与えた。スパスまでは、特に子供を失った両親はリンゴを食べるのは禁忌とされた。民間信仰によれば、子供を亡くした母親がスパスまでにリンゴを食べると、子供はあの世でリンゴが食べられなくなってしまうという。

 この日は、様々なリンゴ料理が食卓に上がった。リンゴのパイ、アップル・シャーロット、ブリヌイ、焼きリンゴ、リンゴジャムなどいろいろだ。

クルミのスパス

ウラジーミル・ロバチェフ パン「Батюшко-хлебушко」(バチュコシコ・クレーブシコ)、ベルゴロド民族文化博物館での展覧会
ウラジーミル・ロバチェフ

 聖母就寝祭の精進が終わった直後の8月29日は、スパスの中で最も小規模な祭日である。これも教会の、救世主自印聖像のエデッサよりコンスタンティノープルへ移しし祭日と結びついている。この日までに穀物の刈入れが終わる。刈り取りが間に合わない家庭には、近隣の住民が収穫に協力した。この時季、森にはクルミが熟し、町や村では市が開かれ、麻布が売られた。

 教会にはクルミ、収穫した穀物の焼きたてパン、麻布が持ち寄られ、清められる。クルミパン、クルミの浸酒、クルミの若い実を使ったジャムなど、クルミを使った特別な料理が作られた。クルミのスパスは、夏を送る日でもある。畑仕事も終わり、秋の準備が始まることを告げる日だった。

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