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最も頻繁に引用されるロシア文学5作品:金言となったセリフやフレーズ

ユーリ・クシェフスキー(CC BY-SA 4.0)
おそらく、世界のロシア語圏に住む人なら誰もが、これらのフレーズを口にするだろう。これらの語句の出典となった作品の大半は、ロシアの学校で習う。ロシア・ナビは、これらの作品とその最も有名なセリフやフレーズを思い出してみた。

1.アレクサンドル・グリボエードフの『知恵の悲しみ』 (1823年)

Public domain

 19世紀前半のモスクワの貴族社会を描いた喜劇。久々にモスクワに戻ってきた青年が、人々に面と向かって辛辣な言葉を吐き、その結果、精神異常者とみなされてしまう。

  • "Счастливые часов не наблюдают"(「幸せな人は時計を見ない」)。時間が、それと気づかぬうちに過ぎていく人について、こう言われる。
  • "Ум с сердцем не в ладу"(「頭と心が調和していない」)。感情と知性が葛藤している人のこと。
  • "Служить бы рад, прислуживаться тошно"(「勤務は喜んでするが、ご機嫌取りはまっぴらだ」)。企業倫理を軽視しがちな人が、自分自身についてこう言うこともある。
  • "А судьи кто?"(「判事はどなた?」)。人を批判したりあげつらったりしがちな人について、そんなことをしていると評判を落としますよ、と仄めかすとき。
  • "И дым Отечества нам сладок и приятен!"(「祖国の煙さえ、我々にとっては甘く心地よい!」)。祖国への愛について。

*日本語訳:

  • 小川亮作 訳、岩波文庫、1954年。
  • 倉橋健訳、世界文学大系 第89(古典劇集 第2)、1963年。

2.アレクサンドル・プーシキンの『エフゲニー・オネーギン』(1833年)

自室にいるオネーギン
エレナ・ペトロヴナ・サモキシュ=スドコフスカヤ

 19世紀前半のロシア貴族を描いた韻文小説で、恋愛や決闘の場面を含んでいる。

  • «Чем меньше женщину мы любим, тем легче нравимся мы ей»(「女性を愛さないほど、女性から愛されやすくなる」)。今なら、これは、女たらしの手管の一つだと言われるかもしれない。
  • «Кто жил и мыслил, тот не может в душе не презирать людей»(「人生を生き、考えてきた者なら誰でも、心の中では人を軽蔑せずにはいられない」)。これは、社会恐怖症の人の言い分かも。
  • «Но я другому отдана; я буду век ему верна»(「でも、私は別の人のところへ嫁いだのです。私は永遠にその人に忠実です」)。女性が夫への義務を崇拝者への気持ちよりも優先させるとき。
  • «Привычка свыше нам дана: замена счастию она»(「習慣は上から与えられる。それは、幸福の代わりとなる」)。プーシキンは、ある詩では、これを次のように表現している。「この世に幸福はないが、平和と意志はある」
  • «Они сошлись. Волна и камень, стихи и проза, лед и пламень»(「彼らは、馬が合ったのだ。波と石、詩と散文、氷と火だとはいえ」)。二人の正反対の人間が、その矛盾にもかかわらず、親友、あるいは夫婦にさえなることがある。そういう二人について、こう言う。

*日本語訳:

  • 木村彰一訳、講談社文芸文庫、1998年。
  • 池田健太郎訳、岩波文庫、1962年。

 その他

3.イリヤ・イリフとエフゲニー・ペトロフの『十二の椅子』(1927年)

「ボートに乗るヴォロビャーニノフとベンダー」・ククルイニクスイ画家たちのイラストレーションの複製
Sputnik

 1920年代のソビエト・ロシアを舞台とした小説で、詐欺師コンビが、12脚の椅子のうちの1つに隠されたダイヤモンドを必死に追い求める。

  • «Командовать парадом буду я!»(「パレードの指揮は私がとる!」)。自分がリーダーになると申し出た者がそう言う。
  • «Лёд тронулся, господа присяжные заседатели!»(「陪審員諸君、氷が動き出した!」)。物事がついに動き出したときにこう言う。
  • «Молодая была уже не молода»(「若夫人はもはや若くはなかった」)。成熟した年齢で結婚する花嫁について。
  • «Не учите меня жить, лучше помогите материально»(「どう生きるべきか教えるのではなく、経済的に援助してほしい」)。口を出さずに、ただ金を出してほしい、というとき。
  • «Автомобиль, товарищи, не роскошь, а средство передвижения»(「同志諸君、車は贅沢品ではなく、移動の手段である」)。車なしでの生活は、実際かなり不便だ。

*日本語訳:江川卓訳、世界ユーモア文庫〈2〉、1977年。

4.ミハイル・ブルガーコフの『巨匠とマルガリータ』(1929~1940年)

Sputnik

 1930年代のモスクワに、悪魔とその従者たちが訪れ、舞踏会を開くが、その際に、愛し合う一組のカップルが永遠に一緒にいられるように手助けする。

  • «Рукописи не горят!»(「原稿は燃えない」)。転義で、何一つ、完全に、痕跡を残さずに消え去ることはない。
  • «Свежесть бывает только одна - первая, она же и последняя. А если осетрина второй свежести, то это означает, что она тухлая!»(「鮮度は一種類しかない。第一の鮮度は、また最後の鮮度でもある。もしチョウザメが二番目の鮮度であれば、それは腐っているということだ!」)。消費者は新鮮な品が欲しいのだ。
  • «Никогда и ничего не просите! В особенности у тех, кто сильнее вас. Сами предложат и сами всё дадут!»(「決して何も頼んではいけない!とくにあなたより強い人には。彼らは、自らそれを提案し、自ら与えてくれるだろう!」)。プライドは、一見そう思われるほど厄介なものではない。
  • «Факт – самая упрямая в мире вещь»(「事実は世界で最も頑固なものだ」)。誰も明白に証明された事実を否定しない。
  • «Правду говорить легко и приятно»(「真実を語ることは簡単で楽しい」)。これは逆説的な表現で、実は、誰にとっても難しく、愉快なことではない。

*日本語訳:

  •  水野忠夫訳、岩波文庫、2015年。
  •  法木綾子訳、群像社、2000年。
  •  中田恭訳、三省堂書店、2016年。

5.イワン・クルィロフの『寓話』(1809~1834年)

猫と料理人
セルゲイ・グリブコフ
  • «А Васька слушает да ест»(「ワーシカは、話は聞いたけど食べてるよ」)。人が批判に鈍感で、自分がやり始めたことを続けることを意味する。
  • «У сильного всегда бессильный виноват»(「強者は常に無力な者を責める」)。「ポスト真実」の時代に当てはまる。
  • «Услужливый дурак опаснее врага»(「親切な馬鹿は敵より怖い」)。誰かを助けるときも、ちゃんと理性を働かせる必要がある。
  • «Кукушка хвалит петуха за то, что хвалит он кукушку»(「雄鶏がカッコウを褒めたので、カッコウも雄鶏を褒める」)。相互のかばい合いについて。
  • «Слона-то я и не приметил!»(「象は目に入らなかったよ!→木を見て森を見ず」)。誰かがあまりに明白なことに気づかないときに言う。

*日本語訳:『クルイロフ寓話集』内海周平訳、岩波書店、1993年。