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ロシアで日本の巡査を呼ぶ?

キラ・リシツカヤ(写真:master1305, Yagi Studio, klyaksun, Keystone-France/Gamma-Keystone via Getty Images)
ロシア人が巡査を呼んでいる。それも、なぜか「日本の巡査」を呼んでいる。もちろん、そんなものは現れない。この場合、そのロシア人は何かに驚いたか、あるいはショックを受けて、とっさにこの言葉が出たのである。

 「Японский городовой!(日本の巡査!)」という表現がロシア語に登場したのは、ロシア皇太子襲撃事件の後である。ニコライ2世として即位する6年前、皇太子は東方歴訪の旅に出て、1891年に日本を訪れた。

 外国の皇位継承者による訪日は初めてのことであり、大きな注目を集めた。ところが、大津町で大事件が発生する。現地で勤務していた警察官の津田三蔵巡査が皇太子を襲撃し、サーベルで数度斬り付けたのである。

 幸いにもサーベルは掠めただけで大事には至らず、ニコライ皇太子は傷の縫合と包帯だけで済んだ。数日後にロシア艦隊は日本を去り、狂信的な日本の警察官(かつてロシアでは下級警察官をгородовойゴロドヴォイと呼んだ)のエピソードを持ち帰った。

 20世紀初頭、何か思いがけない、途方もない出来事を強調するために、「日本の巡査」というイメージがさかんに使われた。やがてこの言葉は、驚きを表現する際に罵り言葉の代用として定着したのである。