ロシア人はなぜときどき「Вы」(あなた)を大文字で書くのか?
どう書くのが正しいのか
まず何よりも覚えておくべきことは、複数の人に呼びかける場合には、常に「вы」を小文字で書かなければならない、ということだ。この場合、それぞれの相手に対して口頭では「ты」(親しい、あるいは目下の人に対して「君」)で話しているか、「Вы」で話しているかは、まったく関係ない。たとえば、
“Дорогие коллеги, прошу вас присоединиться к видеоконференции!”
(親愛なる同僚の皆さん、ビデオ会議にご参加ください!)
これに対して、1人の相手に対する丁寧な呼びかけとなると、少し事情が複雑になる。
- 代名詞「ты」(君)、「твой」(君の)は小文字で書く。ただし例外として、それが神に向けられる場合は別である。たとえば、「Да святится имя Твое」(願わくは御名の崇められんことを)。
- 「Вы」、「Ваш」と書くべきなのは、公的な書簡、文書、アンケート、広告チラシにおいて、また君主や高貴な人物に呼びかける場合である。たとえば、「Ваше Величество」(陛下)、「Ваша Светлость」(閣下)である。また、裁判で裁判官に呼びかける「Ваша честь」(閣下/裁判長)もそうだ。
それ以外の場合、たとえばインタビューや私的なやり取りでは、規則上は、「вы」を小文字で書いてよい。重要なのは、それがやり取りに参加する全員にとって受け入れ可能であることだ。
ポータルサイト「グラモタ・ル」の編集者アンドレイ・ゴルシコフは、次のように書いている。
「多くの人の言語感覚は、おおよそ次のように告げている。60歳以上の人には、やはり大文字の「Вы」で呼びかけた方がよく、45歳以上の人については、公的性格の度合いによる。そして若い人には、小文字でも許される、と。「ты」、「вы」、「Вы」 の使い分けは、他の言語における丁寧さのさまざまな水準、すなわち低・中・高のレベルの丁寧さに対応させて考えることができる」
昔はどうだったのか
ロシア文化においては、長いあいだ、もっぱら「ты」による呼びかけが伝統的だった。ただし、すでに11世紀から16世紀には、「вы」という代名詞が、公などの高い地位にある人物に対して用いられることがあった。
『大ロシア語詳解辞典』(Толкового словаря живого великорусского языка)の著者ウラジーミル・ダーリは、「вы」による呼びかけを「ゆがんだ丁寧さ」と呼び、「我が国では今なお、素朴な人間は誰に対しても「ты」と言う。神にも、君主にも」と強調していた。
「вы」による呼びかけが現れたのは18世紀で、西ヨーロッパ諸語の影響によるものだった。フランス語では vous が、2人称複数にも、1人の相手への丁寧な呼びかけにも用いられ、ドイツ語では、敬称のSie(あなた)は、語形の上では「sie」(彼女、彼ら)と同じである。
しかし19世紀になると、「вы」の使用は習慣的なものとなり、礼儀の必須の指標へと変わった。この時期以降、対等な者同士、あるいはよく知った者同士のやり取りという文脈を離れた「ты」は、しだいになれなれしさとして受け取られるようになった。
“Вы мне не тыкайте, я с Вами на брудершафт не пил!”
(勝手に「ты」で話さないでください、私はあなたと義兄弟の杯を交わしたわけではありません!)
これからはどうなるのか
時代は移り、エチケットの規則も変わる。近年、新たな傾向が見られるようになった。多くの人が、いわゆる «выканье» (「вы」で話す)に否定的に反応するようになっているのだ。そこに、たとえば同僚とのあいだで、もっと気軽に、親しく、距離や儀礼を持ち込まずに話したくない、という気持ちを読み取るからである。
今日では、「Вы」を大文字で書くという規範は、明らかに弱まりつつある。それでもなお、1人の相手に公式な手紙を書く場合には、相手への敬意を強調するために「Вы」と書くべきだ。しかし、インターネット上のやり取りでは、大文字はかえって余計に見えることもある。