モスクワ・クレムリンの「武器庫」の主要展示品10選

ロシア・ナビ(写真:クレムリン博物館、Getty Images))
ロシア・ナビ(写真:クレムリン博物館、Getty Images))
ロシアのツァーリたちの遺品の大半は、まさにここに収蔵されている。数千点にのぼる展示品の中から、我々は、とりわけ興味深く重要なものを選び出した。

 「武器庫」は、モスクワ・クレムリンの敷地内にある宝物館的な博物館だ。ここに収められているのは、武器そのものというより、むしろロシアのツァーリたちにゆかりのある、あらゆる意味で貴重な品々である。すなわち、戴冠式の衣装、馬車、玉座、そしてロシアおよび外国の宝飾職人たちによる傑作などだ。これら装飾応用美術の所蔵品は、全部でおよそ4千点に及ぶ。

 この博物館の創設の日付は、1806年3月10日とされている。これは、皇帝アレクサンドル1世が、何世紀にもわたってこれらの宝物を集積してきた皇室の宝物庫を基盤として、博物館を設立するよう命じる勅令を出した日だ。現在の武器庫の建物は、この博物館のために、建築家コンスタンチン・トーンが1851年に建設した。

1.宝飾されたイコン「ウラジーミルの生神女」(16世紀)

クレムリン博物館
クレムリン博物館

 武器庫を訪れる来館者を迎えるのは、金工職人たちに捧げられた一室だ。敬虔な信仰に支えられていた、ピョートル大帝以前のロシアでは、彼らの仕事の大部分は、教会用の貴重な祭具の制作に向けられていた。すなわち、宝石をちりばめた十字架、聖典、教会用什器、聖人の聖骸を納める棺、さらに豪華な被覆を施したイコンなどである。正教会の主要な聖遺宝の一つが、16世紀の豪華な覆いをまとったイコン「ウラジーミルの生神女」だ。

2.ファベルジェのインペリアル・イースター・エッグ「モスクワ・クレムリン」(1906年)

クレムリン博物館
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 武器庫には、宮廷宝飾師カール・ファベルジェの名高いインペリアル・イースター・エッグ(復活祭の卵)のうち、その大部分が収蔵されており、ここには10点が所蔵されている。ファベルジェ工房は、このような贈り物を毎年、皇帝一族のために制作していた。この卵は、その中でも最大のもので、ニコライ2世のモスクワ訪問を記念して作られたものだ。卵そのものは生神女就寝大聖堂(ウスペンスキー大聖堂)を想起させ、台座の輪郭はクレムリンの城壁を思わせる。

 モスクワ・クレムリン博物館群のコレクションに含まれる他のファベルジェの卵については、こちらを参照。

3.戴冠式のマント(1896年)

クレムリン博物館
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 とりわけ見応えのある部門の一つが、18世紀から20世紀初頭にかけての豪奢な世俗衣装の展示だ。儀礼用のカフタン、皇帝家の女性たちのドレス、そしてもちろん戴冠式の装束が並ぶ。たとえば、このマントは、ロシア最後の皇后アレクサンドラ・フョードロヴナの戴冠式に用いられたものである。

4.モノマフの冠(14世紀)

Getty Images
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 この収蔵品群に含まれる戴冠の宝物の中でも、これは最も重要な展示品だ。名高い「モノマフの冠」は、16世紀から17世紀にかけて、すべてのツァーリの戴冠式に用いられた。黄金と宝石で飾られたこの冠は、ジョチ・ウルス(キプチャク・ハン国)の職人たちによって作られたものである(もっとも、伝説によれば、これはビザンツ皇帝がウラジーミル・モノマフに贈ったものとされる)。その後、モスクワで毛皮による装飾が施された。

5.「二人用玉座」(17世紀末)

クレムリン博物館
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 武器庫の玉座コレクションには、豪華な帝政期の玉座や、象牙を彫刻して作られた優美な玉座など、多種多様な展示品が含まれている。しかし、その中にはまったく比類のない品もある――それが二人用の玉座だ。1682年、歴史上初めて、アレクセイ・ミハイロヴィチの息子である二人の幼いツァーリ、イワン・アレクセーエヴィチ(のちのイワン5世)とピョートル・アレクセーエヴィチ(のちのピョートル1世)が同時に戴冠した。この玉座は、彼らのために特別に作られたものである。

6.皇帝の馬車(1746年)

クレムリン博物館
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 武器庫の大広間の一つは、馬車の展示にあてられている。展示品の中には、小型の遊戯用の「馬車」もあれば、金箔で飾られた大型の皇帝の馬車もある。

 たとえば、この18世紀の豪華な馬車は、女帝エリザヴェータ・ペトロヴナの所有だった。これもまた戴冠式の行列に用いられ、新帝はこの馬車に乗って、荘重にクレムリンへと入城した。

7.正装の甲冑をまとったロシアのヴォエヴォダ(軍司令官)(17世紀)

クレムリン博物館
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 このコレクションには、古い兜や甲冑、武具も含まれており、刀剣類、拳銃、銃器など、ロシアおよび外国の職人たちによる品々が展示されている。完全な武装一式の実例もあり、その一例が、ヴォエヴォダの儀礼用甲冑である。

8.兜「エリホンカ」(1621年)(*エリホンカは、古代・中世ロシアの尖った兜)

クレムリン博物館
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 この兜は、17世紀初頭に、クレムリンの武器職人ニキータ・ダヴィドフが、ロマノフ朝最初のツァーリであるミハイル・フョードロヴィチのために制作したものである。ところが19世紀になると、この兜は、中世ロシアの救国の英雄、アレクサンドル・ネフスキーその人のものであったという伝説が生まれた。その兜の意匠は、ロシア帝国の大紋章にも取り入れられた。

9.船形杯(17世紀)

クレムリン博物館
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 収蔵品のかなりの部分を占めているのが、ロシアのツァーリたちに贈られた、使節からの献上品や、その他の貴重な杯類である。たとえば、この船形杯は、1648年に大貴族ワシリー・ストレシネフがツァーリ、アレクセイ・ミハイロヴィチに献上したものだ。おそらくこの装飾芸術の傑作は、ドイツの職人たちによって制作されたものだろう。 

10.磁器セット「オリュンポス」(1804~1807年)

クレムリン博物館
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 西欧美術の作品群の中には、このような磁器の傑作も含まれている。この食器セットは、フランスのセーヴル磁器製作所で、ナポレオン自身の注文によって制作された。当初は弟ジェロームの結婚祝いとして用意された贈り物であったが、その後ボナパルトは、ティルジットの和約締結を記念して、このセットを皇帝アレクサンドル1世に贈った。