
「要塞」ではなく「邸宅」――ロストフ・クレムリン、その知られざる姿

ロシア西部に位置するロストフ・ザ・グレートの「ロストフ・クレムリン」は、一般に知られる「クレムリン(要塞)」とは趣を異にしている。他地域のクレムリンが主に防衛目的で築かれたのに対し、この施設は居住用の邸宅として、17世紀半ばから後半にかけて建設されたものである。

設計を主導したのは、当時のロストフ府主教であったヨナ3世(イオアナ)。彼自身の住居兼執務空間として構想され、1650年代から1680年代にかけて段階的に整備されたとされる。

現在「ロストフ・クレムリン」と総称されるこの施設は、3つの区域に分かれている。中心には、16世紀に建てられた聖母被昇天大聖堂がそびえる大聖堂広場があり、その南側には府主教の執務空間である「府主教の間」が、また東側にはリンゴの木や池を望む「府主教庭園」が広がる。

現在、このクレムリンは国立博物館・保護区として整備されており、歴史的建築群や展示をめぐる見学ツアー、特別展などが年間を通して行われている。

また、1973年に旧ソ連で公開された人気コメディ映画『イワン・ヴァシリエヴィチ、転職』のロケ地としても知られ、映画ファンの訪問も絶えない。
