ニコライ・レスコフの代表作、絶対におすすめの5選

ロシア・ナビ(写真:Avosb/Getty Images, トレチャコフ美術館)
ロシア・ナビ(写真:Avosb/Getty Images, トレチャコフ美術館)
レフ・トルストイが「作家の中でも最もロシア的」と評したほど、レスコフは地方の暮らしを鮮やかに描写した。

1.『左利き』(Левша)

イグナトヴィッチ / Sputnik
イグナトヴィッチ / Sputnik

 作中、アレクサンドル1世がイギリスから驚くべき珍奇な品、機械仕掛けの鋼鉄製の踊るノミを持ち帰った。トゥーラの熟練武器職人たちは、イギリス製を越える品を考案するよう依頼される。斜視の職人レフシャは顕微鏡を使って、ノミに蹄鉄を打ってみせる。

 ロシアの子どもたちは、この作品を習うことでレスコフという作家を知る。説話のようでありながら、作品は民衆的な表現に満ちている。『左利き』は、トゥーラにおいて地元の伝説のように語り継がれるようになった。また、「ノミに蹄鉄を付ける」という表現は、複雑で精緻な仕事を意味する慣用句として定着した。

2.『ムツェンスク郡のマクベス夫人』(Леди Макбет Мценского уезда)

クズミン・ニコライ・ヴァシーリエヴィチ
クズミン・ニコライ・ヴァシーリエヴィチ

 商家の若い妻カテリーナ・イズマイロワはオリョール県ムツェンスク郡で暮らしている。夫は出張が多く、カテリーナは豪邸で退屈している。そして彼女は、美男の番頭セルゲイに惚れてしまい、2人の熱愛は舅の知るところとなる…愛する人を救うため、カテリーナは殺人に手を染める。それも、一度ならず。

 レスコフの筆致は商家の暮らし、そして金銭と利益ばかりに関心が集まる地方の「闇」を巧みに描き出している。シェークスピア的な迫力に満ちた本作は、当時の批評家たちの大きな反響を呼んだ。

3.『魅せられた旅人』(Очарованный странник)

パブリックドメイン 新聞「ルスキミール」の発行、1874年
パブリックドメイン

 イワン・フリャーギンは異色の、悲劇的な経歴の持ち主だ。生涯にわたって放浪し、様々な困難に出会ってきた。捕虜になったり、兵士になったり、修道院で修行したり。しかしその生涯を通して、彼は何かに魅了され続ける定めとなっている。それは自然であったり、女性であったり、人生そのものであったり、信仰であったりする。

 本作の当初のタイトルは、『黒土のテレマコス(Черноземный Телемак)』で、オデュッセイアを連想させる。同時に、幼少時代、悪徳との戦い、懺悔、信仰に至る描写など、各章が主人公の生涯の各エピソードに割り当てられ、そのスタイルは聖者伝とも共通する部分がある。

4.『僧院の人々』(Соборяне)

パブリックドメイン
パブリックドメイン

 物語の中心は、3人の聖職者:首席司祭のサヴェーリー、聖職者ザハーリー、輔祭のアヒラ。舞台は架空の都市スタルゴロド。サヴェーリーは極めて信心深く、正教の理想のためには教会上層部との対立も辞さない。

 レスコフ自ら、本作を「ロマン年代記」とカテゴライズしたロシア文学史上初めて、地方の僧院の日常生活が詳しく描写された。聖職者が欠点や罪や疑念を持つ、普通の人間として描かれたのも、初めての事であった。

5.『封印された天使』(Запечатленный ангел)

G. トゥーロフ / Sputnik 画家ゲオルギー・ユディン、複製画
G. トゥーロフ / Sputnik

 古儀式派の共同体に、天使の姿を描いた特別なイコンがあった。古儀式派の取り締まりの中、役人たちはそのイコンを押収して封印してしまう。しかし、イコンを気に入った主教が、教会に安置するよう命じる。それを見た古儀式派は命の危険をおかして、天使のイコンを複製品とすり替えようと画策する。物語のラストで、新旧の教会の人々はクリスマスを前にして、奇跡的な和解を果たす。

 この作品でも、レスコフは宗教的な分裂というテーマを扱い、彼の関心のほどがうかがえる。『封印された天使』はアレクサンドル2世にも高く評価されたおかげで、検閲を免れた。