プーシキンの娘はレフ・トルストイにとって何者となったのか?
『アンナ・カレーニナ』の主人公アンナの容姿のモデルとなったのは、旧姓プーシキナのマリア・ガルトゥング――詩人アレクサンドル・プーシキンの長女だった。
この事実は、レフ・トルストイ本人の言葉によって、また、ガルトゥングとトルストイの出会いについて詳しい回想を残した、トルストイの妻の妹タチアナ・クズミンスカヤの証言によっても裏づけられている。
「私たちが美しくしつらえられた茶卓を囲んでいると、玄関の扉が開き、黒いレースのドレスを着た見知らぬ女性が入ってきた。その軽やかな足取りは、ややふくよかではあるものの、すらりとした優美な身体を、いとも軽々と運んでいた。
私は彼女を紹介された。レフ・ニコラエヴィチはまだテーブルに座っていた。彼がその女性をじっと見つめているのが、私には分かった。
『あれは誰だい?』
彼は私のそばに来ると、そう尋ねた。
『ガルトゥング夫人よ。詩人プーシキンの娘さん』
『なるほどねえ』と彼は言葉を引き延ばした。『これで分かった…見てごらん。襟足のところに、アラブ風の巻き毛があるだろう。血筋は争えないね』」
その晩、トルストイとガルトゥングは言葉を交わした。そして後にトルストイは、豊かな巻き毛、襟足やこめかみに垂れる巻き毛、そして黒いドレスも含め、彼女の容姿を自作のヒロインに取り入れたのである。『アンナ・カレーニナ』の初期草稿では、そのヒロインは「プーシキナ」とさえ呼ばれている。