ロシア人も苦労するロシア語文法?
アクセント
ロシア語最大の難関の1つが、アクセントを覚えることだと、多くの外国人は言う。しかし実は、当のロシア人もアクセントには苦労しているのだ。というのも、アクセントには明確なルールが存在せず、しかも単語の格変化や活用変化にともなってアクセントの場所が移動することも多い。
『ロシア語の難しさ辞典』の著者である国立モスクワ大学のミハイル・シュトディネル助教授は、48年間にわたってジャーナリズム学部のロシア語文体論講座で講義を担当している。彼が言語ポータルGramota.ruに語ったところによると、講座には現役ジャーナリストからたびたび質問の電話がかかってくるそうだ。時には生放送の5~10分前というタイミングの場合もある。最も多い質問が、アクセントに関するものだ。
「かなり昔ですが、学生記者が放送前にплы́ло か плыло́ (泳いだ)、アクセントはどちらかを訊いてきたことがありました。即座に前者だと回答しました。私には動詞の中性過去形のアクセントを確認する独自の方法があります。大多数のケースで、アクセントは複数形のアクセントと一致するのです(泳ぐплытьの場合はплы́ло — плы́ли)」。
また、外来語の場合も、アクセントの混乱が多い。多くの場合は原語を参照する必要があるが、ロシア語独自の文法が適用される場合もある。
数詞
「大手ラジオ局の記者でも非常に多い間違いが、数詞の格変化です。例えば、800ルーブル足りない、というフレーズで、正しくはвосьмисотなのに、восьмистаと言ってしまうケースです」。
さらに多いミスが、構成する全ての語が変化する、複合数詞の格変化だ。たとえば「В девяноста одном экземпляре(91個のサンプル/部数)」は、「В девяносто одном」と簡略化される場合が多い。
2000年を意味する語はдвухтысячныйが正しい形だが、2002年は合成順序数詞なので、две тысячи второйとなる。
個数詞であるполтора(1.5)も、混乱しやすい単語だ。「Мне нужно полторы минуты(私には1分半が必要だ)」は対格だが、生格だと「Мне не хватило полутора минут(私には1分半足りなかった)」となる(なお、アクセントもполторы́ 、полу́тораと変化する)。
一部の名詞の性
好例が、コーヒーを意味する単語кофеだ。文法上は男性名詞である。しかし一般には中性名詞として使用されるケースがあまりにも多いため、今では1つのバリエーションになってしまった。シュトディネル助教授は、кофеは遅かれ早かれ完全に中性名詞化するだろうと予測している。不活動体の不変化名詞にとって避けられない運命だという。
「20世紀初頭には、такси(タクシー)という語にも混乱があったことは、興味深い事実です。男性名詞(例:такси приехал タクシーがきた)でも女性名詞(例:моя такси 私のタクシー)でも使用されることがありました。しかし周知のように、現在では中性名詞として固定されています」。
言葉の一致
形容詞が複数の性の名詞や数と一致する場合、その最初のものとのみ一致させるだけでも構わない。
「まだソ連だった頃、当時の文化副大臣から電話がありました。彼は、『Советская эстрада и цирк(ソ連の舞台とサーカス)』という雑誌名について、文法的に間違っているいう指摘が非常に多いが、そうなのか?と質問してきました」。
副大臣は、このタイトルだと舞台だけがソ連のもので、サーカスはソ連のものではない、と解釈可能なので、«ソ連»のを複数形の«советские»に変えるべきなのか、と仮定していた。
シュトディネル助教授は、「ソ連の」は舞台にもサーカスにもかかっているので問題ないと回答し、ツルゲーネフから「Дикий гусь и утка прилетели первыми(野生のガチョウとカモが真っ先に飛んで来た)」という一文を引用して、副大臣を安心させたという。