名詞の性、ロシア語文法トップクラスの謎カテゴリ

ロシア・ナビ(写真:Bernhard Lang/Getty Images)
ロシア・ナビ(写真:Bernhard Lang/Getty Images)
なぜдом(家)が男性名詞で、здание(建物)が中性名詞なのか、外国人に説明するのは容易ではない。そういうものだ、と記憶するしかない。

 ロシア語の名詞には3種類の性がある。男性名詞、女性名詞、中性名詞だ。現代ロシア語の名詞のうち男性名詞は全体の46%近くを占め、女性名詞は41%、中性名詞が13%だ。

なぜ言葉に性別がついたのか

 名詞の性の発生については、言語学者の間に統一された見解が無い。Gramota.ru編集者のアンドレイ・ゴルシコフいわく

 「自然発生を主張する派は、名詞の性というカテゴリの発生は、生物学的な性と直接に結び付いていると言います」

 とのことだ。

 しかし、形態学的な発生説を唱える派は、名詞の性を言語の文法の発達と関連付けている。

 生きている対象物の場合は、感覚的に理解できる(活動体名詞)。女性は女性名詞で、男性は男性名詞だ。動物の多くは雌雄によって名詞も変わる。例えばкозел-коза(オスヤギ/メスヤギ)、конь-лошадь(オス馬、メス馬)といった具合だ。

 中性名詞は通常、生命以外の物体や抽象的なもの(不活動体名詞)に関連している。море(海)、небо(空)、поле(野)などである。

 なお、ロシア語には名詞の性が変わった言葉もある。лосось(鮭)、путь(道)、лебедь(白鳥)、Суздаль(スーズダリ)といった語はかつて女性名詞で、тень(影)は男性名詞だった。

 「このこのとは、文法上の性が、言葉の意味とは関連が無く、すなわち性別とも無関係であることの証左であると言えます」

 と、アンドレイ・ゴルシコフは指摘している。

名詞の性はどのように判断すれば良いのか?

 名詞の性は、語彙上の意味と関連が無い場合が大半である。したがって、それぞれの名詞が男性名詞なのか女性名詞なのか中性名詞なのか、覚えるしかない。

 しかも、ロシア語の名詞の性のカテゴリは、他の言語(ドイツ語など)と一致しない事が多い。

 実際のところ、ロシア語を母国語とする話者でも、名詞の性の判断に苦労することがある。典型的な例として、кофе(コーヒー)、略語ではНАТО(NATO)、複合語だとинтернет-страничка(webページ)などがある。

 名詞の性を判断する際は、言葉の語尾が間接的にヒントになり得る。しかし、いかなる法則にも当てはまらない言葉もある(例えば、活動体の男性名詞で、語尾が-аおよび-яのもの)。

男性名詞

女性名詞

中性名詞

“ゼロ活用”

語尾が- аもしくは -я

語尾が-оもしくは-е

Сок(ジュース)
Шоколад(チョコレート)
чай(茶)

Вода(水)
Книга(本)
Семья(家族)

Молоко(ミルク)
Животное(生き物)
Печенье(ビスケット)

 例外も多く、また、語尾が-ь(軟音符)の言葉は男性名詞(конь、牡馬)の場合も女性名詞(ночь、夜)の場合もあって難解だ。

共通名詞

 男性名詞、女性名詞、中性名詞の他、ロシア語には共通名詞というグループも存在する。性別として雌雄いずれの場合もあり得る活動体名詞で、外形的には女性名詞に似ている。例えばумница(おりこうさん)、судья(裁定者)、сирота(孤児)などである。

 また、言語学者が「共通名詞入り候補」と呼ぶ、職業を指す一連の名詞がある。例えば「新しい医者が来た」という一文は、новый врач пришелという場合も、новая врач пришлаという場合もある(口語では後者の方が多い)。

 こうした文章の構成はロシア語ネイティブスピーカーには不自然に感じられるゆえに、職業名には女性形が作られる傾向がある。поэт – поэтесса(詩人/女性詩人)、продавец – продавщица(店員/女性店員)などが好例で、すっかり定着している。一方で現在、フェミニストが考え出す女性形にはрежиссер-режиссерка(演出家/女性演出家)のように、奇妙に思われる響きのものもある。

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