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美術館の訪問者による展示作品の破壊行為:最も深刻な6ケース
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1. 『イワン雷帝と皇子イワン1581年11月16日』(イリヤ・レーピン)
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1913年冬、トレチャコフ美術館を訪れていた人々は、突然、大声を聞いた。「血はもうたくさんだ!流血はいらない!」。こう叫んで、古儀式派(分離派)の信者アブラム・バラショフは、イリヤ・レーピンの絵画に向かって突進し、ナイフで3回殴りつけ、雷帝とその息子の顔を切り裂いた。衝撃があまり強かったので、刃がキャンバスの木枠の横棒に突き刺さったほどだ。
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美術館の職員らは非常な衝撃を受けた。美術館幹部で画家のイリヤ・オストロウホフは辞任し、監視員だったエゴール・フルスロフは鉄道自殺した。
作者のイリヤ・レーピンは、急遽モスクワにやって来て、修復者たちといっしょに絵の復元にあたった。まず、それを新しいキャンバスに貼り付け、次に損傷した箇所を新たに描いた。
100年後、歴史は繰り返された。2018年、酔った訪問者イーゴリ・ポドポリンが、囲いの支柱を手に取り、絵画を覆っていた額縁とガラスを殴りつけた。レーピンの傑作は、3か所が傷ついた。 その修復のために、美術館内に特別のスペースが設けられ、そこで、キャンバスは4年かけて復元された。
『ダナエ』(レンブラント)
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エルミタージュ美術館所蔵の至宝は、危うく失われるところだった。1985年夏に、ブロニュス・マイギスという男が『ダナエ』に酷い損傷を与えたからだ。リトアニアから来たこの観光客は監視員に、このホールではどの絵が最も価値があるかと尋ね、答えを得ると、レンブラントのキャンバスに歩み寄り、ナイフで数回刺し、硫酸をかけた。来場者の目の前で、壮麗な『ダナエ』は泡立ち始めた。こうして、塗装層のほぼ30%が破壊された。
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監視員らは直ちに壁から絵を下ろし、水をかけ始めた。もしこれがなかったら、損傷はさらに大きかっただろう。『ダナエ』の復元には実に12年を要したが、いくつかの部分は永久に失われた。1997年に、キャンバスは再び展示された。
『三人の人物』(アンナ・レポルスカヤ)
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2021年12月、エカテリンブルクのエリツィン・センターの警備員アレクサンドル・ワシリエフは、トレチャコフ美術館所蔵のアヴァンギャルド画家アンナ・レポルスカヤの絵画に「補筆」した。つまり、その抽象的で「のっぺらぼう」の人物2人に、ボールペンで目を描き入れた。
この「破壊者」によると、彼は、マレーヴィチの弟子の作品を稚拙な絵と思い、退屈しのぎにやったという。もちろん、キャンバスは復元されたが、裁判所はワシリエフの行為を意図的な破壊とはみなさず、求刑を斥け、無罪とした。
4. 皇后ペトロニアの胸像(*ペトロニアは、ローマ皇帝アウルス・ウィテッリウスの妻)
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芸術家の意図の「補完」は、実はそれほど珍しいことではない。例えば、サンクトペテルブルクの「夏の庭園」に立つペトロニア・プリマの胸像も、2022年秋に、何者かによって目が描かれた。 幸いなことに、「補筆」されたのは、アントニオ・コッラディーニのオリジナル(ミハイロフスキー城にある)ではなく、人造大理石で作られたそのコピーだった。
5. ワジム・シドゥル作のリノリウム版画
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宗教的見解が芸術作品への攻撃を引き起こすこともある。2015年、協会「神の意志」の正教徒の活動家らが、モスクワのマネージで開かれた展覧会「我々の目に見えぬ彫刻」を襲った。彼らは、「ノンコンフォーミスト」(服従、同調しない人)であるワジム・シドゥルの作品が気に入らなかった。彼らの意見では、芸術家は神を卑猥な形で描いていた。「意見交換」の結果、キリストの磔刑をテーマにしたいくつかのリノリウム版画と洗礼者ヨハネの彫刻が損なわれた。
6. ゴヤとダリの『ロス・カプリチョス』
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2018年に、エカテリンブルク国際芸術センター「メーンストリート」で開かれた展覧会「シュルレアリスムの世界」の展示物が、自撮りの犠牲となった。3人の来場者は、ゴヤとダリの版画を背景にどうしても写真を撮りたくて、その結果、スタンドを倒してしまった。スタンドには、ゴヤの版画集『ロス・カプリチョス』に収められていた「ブラヴィッシモ!」のエッチングと、サルバドール・ダリが制作した、そのシュールなバージョン「No」とが置かれていた。ゴヤの作品は額縁とガラスが損なわれだけだが、ダリ作品には穴が開いてしまった。