ストンウエルアートギャラリー:日本で唯一の現代ロシア絵画常設美術館

美術館、展覧会、画集、TVドキュメンタリー…ロシア美術の傑作を見られる機会は多い。しかし、現代ロシア絵画は、日本では殆ど知られていない。そんな現代ロシア写実主義絵画にスポットを当てた美術館が、東京にある。

現代ロシア写実主義絵画の美術館in東京

 美術がお好きで、なおかつロシア・ナビをご覧になっている方なら、古典からロシア・アヴァンギャルドまで、数多の傑作をご存知だろう。だが、現代の作品と接する機会は少ないのではないだろうか?東京には、そんな現代ロシアの風景画家たちの作品を展示する美術館がある。

石島健撮影
石島健撮影

 商店街が賑わう東京の吉祥寺駅からバスで15分、閑静な住宅街の中にひときわモダンな建物が現れる。石井ロシア現代絵画美術館である。館長の石井徳男氏が2度のロシア駐在中に惚れこみ、買い集めた現代ロシア絵画を常設展示している。

 2019年6月に開館。所蔵する現代ロシア絵画は、84名の作家の作品が計336点。展示スペースは約67㎡と小さいが、常時30点前後の作品を鑑賞しやすいように配慮した展示をこころがけている。

石島健撮影
石島健撮影

実は日本人好み?ロシア写実主義絵画

 石井氏は運輸会社の駐在員として1989年からソ連勤務。駐在中はホテル暮らしが続いていたが、壁があまりに殺風景なので、絵を飾りたいと考えた。ソ連は絵画の輸出規制が厳しかったが、当時はペレストロイカを経て規制も緩和されていたので、石井氏はロシア人画家の絵を購入できた。こうして1990年春に買い求めたコレクション第一号が、A.V. オフチャーロフの『霞の朝』(1989年)である。思い出深いこの作品は、チケットにも印刷されている。

 一般に、日本では写実主義絵画の人気はあまり高くない。しかし、現代ロシアの写実絵画は自然風景の描写が構図の中心であり、画面の中に人間が描かれていても、自然に対し従の関係にある。こういった特徴は、日本人の美意識とも共通する部分であると、石井氏は強調する。それだけに、現代ロシア写実絵画の魅力に気付いてほしいという願いも強い。

 所蔵する絵画の多くは風景画。石井氏がロシアで足を運んだ画廊の展示も7割ほどが風景画であり、ロシアにおける風景画の人気が反映されているコレクションと言える。

石島健撮影
石島健撮影

 例えば、展示の中でも大きなサイズのF.V.シャパーエフ『モスクワ郊外の冬』(1991年)は、雪に覆われた丘の道を行く馬橇が描かれている。遠景の常緑樹や手前の白樺、朽ちそうな柵など、多くのロシア人が「見たことあるな・・・」と親しみを覚える風景だ。

 所蔵作品は、古い物では1960年代の絵も数点あるが、ほとんどは1990年以降の作。買い求めた当初はまだ無名だった若手画家の作品が中心で、その多くがやがて画壇で然るべき地位を築いた。中には後年、石井氏の招待で日本を周遊し、日本の風景を描いた画家もいる。

ロシアの感性に触れる

 しかし19年6月の開館以降、コロナ禍とその後の国際情勢の激変は逆風となり、客足は芳しくない。展示作品は年1回の入れ替えを行う予定だが、まだ公開していない作品も多い。館長はいつも在館していて、詳しく解説してくれるほか、もっと見たいというお客さんには、保管中の作品も披露してくれる。

 絵に近づいて鑑賞したり、遠ざかって鑑賞したりして、受ける印象の違いを楽しみむのが、おすすめの鑑賞法。画面構成の妙のなせる業である。館内のスペースに余裕を持たせているのも、このような鑑賞法のためだ。

 田舎の雪道、森林と河、農村、ライラックの花・・・どの絵も、ロシア人があるいは慣れ親しみ、あるいは思い描くロシアの風景。映画や文学にもたびたび登場する景色である。ロシアの感性を形作ってきたその一片に触れられるだろう。

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