
ボルシチの冷た〜い夏バージョン

夏の暑さが本格化すると、ロシアの食卓からは温かいスープが姿を消していく(ただし、旬を迎えるスイバを使った酸味のスープ「シチー」は例外だ)。とはいえ、ビーツを調理する理由がなくなるわけではない。
ロシアの夏の定番料理の一つに、「スヴェコーリニク」と呼ばれる冷製ビーツスープがある。
「オクローシカ」という料理をご存じだろうか。細かく刻んだ食材が何種類も入った、ロシア特有の「ちょっと変わった」冷たいスープだ。スヴェコーリニクは、そのオクローシカによく似ている。
名前の由来は、ロシア語でビーツを意味する「スヴョクラ(свёкла)」。夏に旬を迎えるこの野菜を主役に据えたスヴェコルニクは、もともとすりおろしたビーツに自家製のクワス(ライ麦パンを発酵させた伝統的な飲料)を注ぐだけのシンプルな料理だった。
やがて時代とともに、ゆで卵やキュウリ、茹で肉などが加えられ、より食べ応えのあるスープへと変化していく。
この料理の最大の特徴は、なんといってもその鮮やかな紫紅色。視覚的にも涼を誘い、夏の食卓にぴったりの一皿だ。なお、スープのベースとして使われる飲料はクワスだけでなく、ケフィアやヨーグルトといった乳製品に置き換えるレシピも定着している。