
世界の食卓を変えたロシア式サーヴィス
現在、世界の多くの国で見られる「前菜、メイン、デザート」と順を追って料理が提供される食事スタイル。この形式は、実は「ロシア風テーブルセッティング」に起源があるとされている。今では当たり前とされる食の所作は、どのようにして世界に広まったのか。
フランス式との対比
19世紀半ば以前、ヨーロッパの上流階級では「フランス式サーヴィス」が主流だった。これはすべての料理が同時にテーブルに並べられる形式で、温かい料理は火鉢などで保温されていた。客は自分で好みの料理を皿に取っていたが、テーブルの配置によっては料理に手が届かないことも多く、近くの皿で済ませるのが一般的だった。

一方で、「ロシア式」と呼ばれる形式では、料理は一定の順序で一皿ずつ給仕される。各席には専用のカトラリーが用意され、前菜からメイン、そしてデザートへと進行するスタイルだ。これにより、すべての客がすべての料理を適切な順序で味わえるようになった。
外交官と料理人が橋渡し

この「ロシア式」の形式をヨーロッパに紹介したのが、ナポレオン時代に駐仏ロシア大使を務めたアレクサンドル・クラーキン公爵である。彼はパリでの公式晩餐会を通じて、フランス上流社会にロシアの食事作法を紹介した。

もう一人、普及に貢献した人物がいる。パリの著名な料理人、マリー=アントナン・カレーム氏だ。彼はイギリス王ジョージ4世やロスチャイルド家の晩餐会で料理を手がけ、さらにサンクトペテルブルクの冬宮殿でも腕を振るった。フランス料理の格式とロシアのサーヴィス形式を融合させ、欧州全体にその手法を広めたとされる。

王侯貴族の食卓から始まったこの形式は、次第に上流市民階級、さらには一般家庭へと広がっていった。現在では、国際的なレストランのサーヴィス・スタイルとして標準化され、多くの人々が無意識のうちに「ロシア風」の形式で食事を楽しんでいる。