
なぜ『バック・トゥ・ザ・フューチャー』にロシア・アヴァンギャルドが?

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の主人公マーティ・マクフライは、一見してそれと分かる服装をしている。暗赤色のTシャツ、格子模様のシャツ、ツートーン柄のデニムジャケット、オレンジ色のダウンベスト。そして小さなアクセサリーとして、シュプレマティスム的な図柄のバッジを付けている。白地に黒い半円と赤い三角形が配されたデザインだ。
幾何学的な平面と三次元的なオブジェクトを並べるこのような画は、1919年に芸術家エル・リシツキーが発明したものだ。彼はこうしたイラストを「絵画から建築への乗り換え駅」と表現した。こうした表現様式は、ロシア・アヴァンギャルドの代表的な潮流の1つとなった。

よく見ると、マーティのバッジには「ART IN REVOLUTION」という文字がある。これは、ロンドンのヘイワード・ギャラリーで実際に開催されたソビエト芸術・デザイン展の名称である。
英国アーツカウンシルとソ連文化省の共同プロジェクトとして開催されたこの展覧会はセンセーションを巻き起こし、2か月足らずの開催期間中に来場者は約6万人を数えた。
マーティ・マクフライの造形にあたった『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の衣裳デザイナーたちは、彼の反骨精神を強調する何らかの要素を加えようと試みた。芸術の概念を一変させたロシア・アヴァンギャルドというジャンルの展覧会のグッズは、最高にピッタリだったのである。