女帝アンナが「氷の館」で行わせた恐ろしい結婚式

女帝アンナが「氷の館」で行わせた恐ろしい結婚式
国立ロシア美術館、エルミタージュ美術館

 ロシアの女帝アンナ・イワノヴナ(ヨアノヴナ)(1693~1740年)は、ピョートル大帝(1世)の異母兄の娘だ。彼女は、自身の愉しみのために、宮廷に小人、巨人、せむし、珍しい姿形の外国人など、一群の道化を揃えていた。

 彼女のお気に入りは、小柄なアヴドーチャ・ブジェニノワだった。明るく輝く肌を持つカルムイク人またはカムチャダルイ人の女性だ(後者は、マガダン州やカムチャツカ地方に住む少数民族)。彼女は、民族の慣習により、身体に溶けた脂肪を塗っていたという。

女帝アンナが「氷の館」で行わせた恐ろしい結婚式
エルミタージュ美術館

 1739年末に、女帝は、アヴドーチャを結婚させようと思い立った。そして女帝は、クヴァスニクというあだ名の道化を花婿に選んだ。

 かつて、クヴァスニクは、ミハイル・ゴリーツィン公爵だった。彼はイタリア人女性を愛し、カトリックに改宗したのだが、それが女帝を激怒させた。

 公爵は、財産を奪われ、道化の地位に落とされたうえ、女帝とその客人にクワス(黒パンで作る清涼飲料水)を出すことを強制された。これがあだ名の由来だ。女帝は、この不幸な男に対する廷臣たちの嘲笑を許したばかりか、何かにつけてそれを煽った。

女帝アンナが「氷の館」で行わせた恐ろしい結婚式
国立ロシア美術館

 道化の結婚式のために、館が丸ごと氷で建てられた。家具や食器も氷で、その中の食べ物まですべて凍っていた。

 1740年2月17日、新婚夫婦は檻に入れられ、本物の象によって運ばれた。結婚の行列には、それぞれの民族から数百人が参加した。彼らは、帝国各地からサンクトペテルブルクに集められ、民族衣装を着せられた。

 かつてのゴリーツィン公爵とブジェニノワは、教会で結婚し、一晩中、氷の館に閉じ込められた。二人が外に出られないように、入り口には兵士が置かれた。誰もが、二人は死ぬと思ったが、不幸者たちは、ひどく凍えたものの、奇跡的に生き延びた。

 同年10月に女帝アンナが亡くなると、道化の一団は解散させられた。クヴァスニクは、公爵の地位と財産の一部を返還された。彼は、アヴドーチャを見捨てず、1742年まで結婚生活を送った。この年、彼女は出産で死亡している。

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