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「クロコダイル」が、ソ連の空を舞った理由とは?

1930年代のソビエト連邦では、プロパガンダの手段として飛行機が積極的に活用されていた。その象徴的存在のひとつが、9人乗りの旅客機「ANT-9」だった。

 この機体は、「マクシム・ゴーリキー特別合同宣伝飛行隊」の一員として、全国各地の辺境地に共産主義の理念を届けるという重要な役割を担っていた。

 1933年に結成されたこの飛行隊は、交通インフラの乏しい地域を空から訪れ、映画や出版物などの宣伝素材を配布。同行するのは官僚や科学者、労働者代表といった人物たちで、熱弁をふるいながら住民との対話を行った。

 なかでも1935年に投入された1機が異彩を放っていた。風刺雑誌『クロコダイル』の注文によって特別に装飾されたANT-9である。この機体は、動物の足を模した脚部や、胴体上部の隆起、さらには捕食者の「ニヤリ」が描かれた機首など、まさに「空飛ぶクロコダイル」の姿をしていた。塗装は鮮やかな赤と銀だった。

 この「クロコダイル」は数年間にわたり、ソビエト各地を飛び回り、啓蒙装置として活躍した。最終的には1942年、航空会社「アエロフロート」に引き渡され、外装を通常仕様に戻されたという。