ソ連映画ファンを公言する世界の映画監督8選
1.宮崎駿
2007年、日本の長久手市にあるジブリパークにソ連のアニメーション映画『雪の女王』のポスターが掲げられた。そこには、「ぼくにとっては、運命の映画であり、大好きな映画なんです」という、宮崎の言葉が添えられている。
レフ・アタマーノフ監督によるこのアニメーション作品は彼の人生を一変させたと、宮崎は語っている。その頃東映動画に在籍していた宮崎はアニメーターを辞める事を考えていたが、『雪の女王』を観てアニメーションの与え得る感動と、独自のファンタジックな世界を構築できる可能性を再考するに至った。宮崎はロシア語が分からなかったが、たびたび『雪の女王』の録音をかけながら作業をした。
2.クエンティン・タランティーノ
『パルプ・フィクション』を世に送り出したタランティーノは、セルゲイ・エイゼンシュテイン作品の大ファンである。
「彼の作品を愛せずにはいられない。『アレクサンドル・ネフスキー』などは、まさに途方もない!凍った湖の上での戦闘シーン1つ取っても、実に素晴らしい!」
と、タランティーノはインタビューで絶賛している。
タランティーノが好きなソ連映画として挙げていたもう1つが、ヴラジーミル・メニショフ監督の『モスクワは涙を信じない』である。当時15歳だったタランティーノ少年が、初めて映画館に観に行ったソ連映画だった。
「タイトルを見て、これは他のロシア映画と同じ、重苦しい映画なのだな、と思ったのを憶えている。でも実際に観に行ってみたら、なんと、気に入ってしまった!」
タランティーノがソ連映画と出会ったのは7歳の時、テレビで放映された『両棲人間』だった。ただし吹き替え版だったので、タランティーノ少年はそれがソ連製の映画だとは思わなかったらしい。
3.ピーター・グリーナウェイ
イギリスの名手グリーナウェイもまた、尊敬する監督としてエイゼンシュテインを挙げ、エイゼンシュテインこそが現代映画を作り上げたと考えている。
「エイゼンシュテイン作品に出合ったのは16歳の時で、たちまち、人生の指針となった。エイゼンシュテインの最初の3つ傑作、『ストライキ』、『戦艦ポチョムキン』、『十月』と、最後の3つの傑作『アレクサンドル・ネフスキー』、『イワン雷帝』、『貴族の陰謀』(イワン雷帝の第2部)が、なぜあれほど異なるのか、私は不思議だった。最初の3つは非常に理知的なのに対し、最後の3つはより人間的で、理念よりも人間について多く語っている」。
4.ラース・フォン・トリアー
デンマークの映画監督フォン・トリアーはその作品『アンチクライスト』をアンドレイ・タルコフスキーに捧げ、後に、自分の作品は全てタルコフスキーに捧げられ得ると語った。
「私はタルコフスキーから映画の世界に入った。彼が、私に映画の世界への扉を開いてくれた。彼の作品こそ、初めて私に映画という芸術を理解させてくれるものだった。私はタルコフスキーを師と仰いでいる」。
フォン・トリアーは『アンチクライスト』については、こう付け加えている:
「第一に、もし私がこの作品をタルコフスキーに捧げなかったら、皆さんはタルコフスキー作品の剽窃だ、と言っただろう。第二に、私にとってタルコフスキーは最も宗教に近いものだ。彼は私の神なのだ」。
ちなみに、フォン・トリアーはデビュー作『エレメント・オブ・クライム』を、師と仰ぐタルコフスキーに披露する機会に恵まれた。
5.ターセム・シン
ターセム・シンの映画『落下の王国』について、デヴィッド・フィンチャーは「アンドレイ・タルコフスキーが『オズの魔法使い』を撮っていたら、まさしくこうなっていただろう」と評した。
ターセム自身、タルコフスキーとセルゲイ・パラジャーノフの表現スタイルに心酔していたと語る:
「彼らの影響は絶大だ。写真家はしばしば、深さを伝えるにはタルコフスキーを参考にすべし、と言うが、パラジャーノフはその深さを独特の手法で伝えている」。
ロシアの監督たちの影響は、ターセムの制作したPV、特にR.E.M.の『Losing my religion』とDeep Forestの『Sweet lullaby』に顕著だ。もちろん、その傾向は映画作品にも表れておりおり、例えばターセムはファンタジー映画『白雪姫と鏡の女王』で、雪に覆われた森にタルコフスキーの『僕の村は戦場だった』を彷彿とさせる白樺林を作った。
6.ダニー・ボイル
ボイル本人の談によれば、映画監督の道を決意したのはエレム・クリーモフの『炎628』を観た時だったという。また、タルコフスキーの『惑星ソラリス』からも大きな感銘を受け、『サンシャイン2057』の制作時にインスピレーションを受けることになる:
「西側の映画監督にとって、タルコフスキーは映画の神だ」
と、ボイルは言う。いわく、タルコフスキーは現代映画の基礎を成す映画監督の1人だという。
また、アレクサンドル・ソクーロフの『エルミタージュ幻想』はボイルにとって技術的観点から至高の作品とのことだ。
7.スティーブン・スピルバーグ
「ロシア映画の際立って優れた特質の1つが、何らかのとてつもなく巨大な事態が起きているさなかの、ごく個人的で些細な出来事を描写する巧みさだ。ロシア人は1つの愛の物語を伝える時も、その周囲は数千の人間と馬と大砲で囲まれ、爆発が空気を震わせる」。
ミハイル・カラトーゾフの『鶴は翔んでゆく』は、スピルバーグの最も好きな映画の1つという。
8.ヌリ・ビルゲ・ジェイラン
トルコの映画監督で、カンヌ映画祭のグランプリとパルム・ドール受賞者であるヌリ・ビルゲ・ジェイランも、タルコフスキー映画のファンだ。特に『鏡』と『アンドレイ・ルブリョフ』は、映画史を通じても文句なしのトップクラスと言う。
「タルコフスキーの映画を観た後は、もはや以前と同じように世界を見る事は不可能だ。世界観は一変する。数多の新たなニュアンスやディテール・・・言語や叙述法など、タルコフスキーは人生のあらゆる事象に新たな視点を与えてくれた。それはタルコフスキー自身による世界へのメッセージであり、多くの人が身近に感じられる事だった」。