ソ連の漫画はどんなものだったのか:100年以上現役のキャラクターも

Archive photo; Alexey Bouchkin/Sputnik
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ソ連には、タンタンもスパイダーマンもバットマンもいなかった。その代わりに、ソ連の子供たちは、「勇敢なマカール」、「賢いマーシャ」、「ムルジルカ」などについての漫画を読んだ。

 一見すると、ソ連の漫画は、外国の漫画には似ていない。例えば、文字が入る「吹き出し」がほとんどなかった。そのかわりに、散文あるいは韻文の説明があったりした。時には、画家たちは、それらをまったく用いずに描くこともあった。ポスターのように見えるものもあったが、しかし、それらはみな、鮮やかなイラストで描かれた物語だった。そして、必ずしもスーパーマンについての物語ではない。ヒーローは労働者、子供、動物、おとぎ話のキャラクターだった。

風刺的な「ロスタの窓」

 ソ連最初の漫画の一つが登場したのは…内戦のさなかだった。当時、国民の多くは読み書きができなかったため、1919~1921年の主要な出来事については、「ロスタの窓」(*ロスタは、「ロシア通信」の略語)のポスターから知った。最初のポスターは、モスクワ中心部の菓子店のショーウィンドウに貼られており、モスクワへの白軍の進攻について描かれていた。

 ポスターは、50都市で定期的に掲示された。有名な画家や詩人がその制作に携わった。ウラジーミル・マヤコフスキー、ドミトリー・モール、パーヴェル・ソコロフ=スカリャなどだ。スピードを上げるためステンシルを使って描いた(*紙の上に型紙を置き、ローラーで色を塗った)。ポスターは即座に貼り出された。ニュースが通信社に入ってから1時間も経たないうちに重要な出来事が報じられることもあった。

V.Homenko/Sputnik 「ロスタの窓」のポスター
V.Homenko/Sputnik

 「ロスタの窓」は、簡潔な絵と、短く鋭い文章で、前線の状況や国内の状況について語っていた。

 「最後までやり遂げよう!ロシアではブルジョワジーは敗北したが、のらくらしていてはいけない。ヨーロッパの労働者よ、諸君の番だ。連中が完全に敗北するまで気を抜くな」

 また、「ロスタの窓」は、突貫作業を求めた。

 「掘れ、探鉱労働者よ!生産性をどんどん上げていけ。任務を完了したとき、荒廃は終わるだろう」

 「あらゆる怠慢は敵にとって喜びだ。労働の英雄はブルジョアジーへの打撃だ」

賢いマーシャと勇敢なマカール

 1920年代半ばには、絵入りの物語を多く載せた子供向け雑誌が登場した。

 最初の雑誌の一つは『ハリネズミ (Ёж) 』(月刊雑誌)で、旅人の「勇敢なマカール」についての物語を掲載していた。

Archive photo 雑誌「ハリネズミ」
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 マカールは、犬「プレミョート(機関銃)」と馬「グヴォズジーカ(カーネーション)」とともに、世界中を旅した。マカールは平和主義者だった。アフリカ沖でサメと大胆に戦い、流氷に乗ってバルト海を横断し、荒れ狂うライオンを手なずけ、その間に、『ハリネズミ』向けにルポを書いていた、という設定だ。

 また、全国の子供たちが雑誌『チジ(Чиж)』(Чрезвычайно интересного журнала〈非常に興味深い雑誌〉の頭文字)の最新号の発売を、首を長くして待っていた。「賢いマーシャ」についての漫画が載っていたからだ。一続きの絵というアイデアは、詩人ダニイル・ハルムスが発案し、それを画家ブロニスラフ・マラホフスキーが紙上で実現したと考えられている。合計20以上のエピソードが発表された。その中で、マーシャはさまざまな状況に陥りつつも、常に機知に富んだ解決策を見つけ出した。

Archive photo 雑誌「チジ」
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 少女は、おばあちゃんと一緒に針を探し、頑固なロバに町まで連れて行ってもらい、スケートを学び、川で洗濯をし、クマから逃げた。時とともに、マーシャを題材にした漫画には、スピンオフ作品が生まれ、あまり賢くない彼女の弟ヴィーチャについての物語が誕生した。 

『面白いプロジェクト』と『絵で見る物語』

 1920年代後半、作家ミハイル・ゾーシチェンコと画家ニコライ・ラドロフは、『楽しいプロジェクト』という本を出版し、そのなかに「30の幸せなアイデア」を集めた。これは人々の生活を向上させるはずの、彼ら自身の発明だった。例えば、乗客自らが動かした列車「マクシム・マクシームイチ」。それらはすべて、説明文付きの1ページの物語だった。

Archive photo 乗客自らが動かした列車「マクシム・マクシームイチ」
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 ラドロフは、『絵で見る物語』という本の作者でもある。面白い小話が読者を微笑ませた。ずる賢い魚が貝殻で餌のハエを捕まえたり、飛んでいった傘の中で鳥がひなを孵化させたり、シマウマが自分を模様替えして、縞を四角形にしたり。 

あらゆることに関する物語

 やはり絵入りの物語からなる『楽しい絵』は、最も記憶に残る雑誌だろう。1956年の創刊以来、今も発行されている。そのなかには、イラスト付きのおとぎ話や冒険物語、短編小説や詩が掲載されている。作者のなかには、有名な現代画家のイリヤ・カバコフやヴィクトル・ピヴォヴァロフなどもいた。

Archive photo 楽しい絵・「自分を殴った猫」
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ムルジルカ

 ソ連漫画の主人公のなかには、ファンタジーのヒーローもいた。例えば、ムルジルカは、作家アレクサンドル・フョードロフ=ダヴィドフの本の中では、好奇心旺盛な子犬だった。しかし、1930年代半ばに、このキャラクターは変身を遂げた。画家アミナダフ・カネフスキーの手で、それは、赤いベレー帽とスカーフを身に着け、カメラを持った、黄色い毛のふさふさした動物に変わった。

Archive photo ソ連漫画「ムルジルカ」
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 彼はじっとおとなしくしていることはなく、泥棒を捕まえたり、旅行したり、学校に行ったり、スポーツをしたりしていた。ちなみに、ムルジルカはまだ「存在」している。昨年彼は100歳になった。 

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