モスクワ地下鉄について知っておきたい10項目

scaliger/Getty Images
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モスクワ地下鉄は1935年に開通し、現在に至るまで拡大を続けてきた。

1. 旧ソ連で最も古い地下鉄

 モスクワ市民が初めて地下鉄に乗ったのは、1935年5月15日。この日が、モスクワ地下鉄の公式の開業である。当初は13駅で、総距離11.2キロメートル。ソコリニキ駅~オホートヌイ・リャド駅間と、後者からパルク・クリトゥールイ駅行とスモレンスカヤ駅行に枝分かれする路線から成っていた(スモレンスカヤ方面は、現在では別の路線となっている)。

イワン・シャーギン/Sputnik モスクワ地下鉄の建設者が最初の乗客となった。真ん中は、ソ連石炭産業省第一副人民委員、メトロストロイ代表のイェゴル・アバクモフ、1935年
イワン・シャーギン/Sputnik

 地下鉄建設の構想自体は1913年に提唱されていたが、実際に建設が決定されたのは1931年、ソビエト体制になってからである。最初の区間はわずか4年で建設された。モスクワ地下鉄は概ね地下を通り、駅の建設は場所によってトレンチカット工法と開盤式工法を使い分けた。

2. 東欧最大の地下鉄

 現在、地下鉄の総延長は約471キロメートル、15路線(そのうち2路線は環状線)、271の駅を数える。大環状線は世界最長だが、その建設スピードも記録的で、2021年には10の駅が、2023年には最後の7駅が開業した。

Kira Polyudova
Kira Polyudova

 一見すると非常に複雑な地下鉄路線図に見えるが、利用方法は意外と簡単である。そうした詳細は、こちらの記事に詳しい

3. 世界でもトップクラスの乗客数

 2024年、モスクワ地下鉄はのべ22億人の乗客を輸送した。1日の乗客数は600~700万。乗客数がモスクワ地下鉄より多いのは、東京、北京、上海の各地下鉄のみである。

セルゲイ・ピャタコフ/Sputnik
セルゲイ・ピャタコフ/Sputnik

 地下鉄は、モスクワの交通輸送の50%近くを担っている。だが、運賃は一律でわずか75ルーブル(トロイカ・カードを使えば63ルーブル)。1㌦以下である。

4. レーニンの名を冠されている

 モスクワ地下鉄の現在の正式名称は、「V.I.レーニン記念モスクワ地下鉄」である。しかし、最初からこの名称だったわけではない。開業から1955年までは、ラーザリ・カガノーヴィチ記念地下鉄だった。スターリンの側近だったカガノーヴィチは地下鉄建設の総指揮を執り、その功績を称えられた形である。1947年には名称に「レーニン勲章」も追加された。しかしスターリンの死後、カガノーヴィチの名は外された。

Polozovsky
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 レーニン図書館駅、レーニン広場駅のように、レーニンにちなんだ名称を持つ駅もある。また、多くの駅には装飾としてレーニン像があるが、詳細はこちらの記事を参照

5. 40の駅が文化遺産に指定されている

 モスクワ地下鉄は交通機関として重要であるが、毎日多くの観光客が見学のために訪れる、さながら地下の博物館でもある。モザイク画や彫像、シャンデリアや浮彫など、見どころは多い。スターリン時代は最高峰の建築家とデザイナーたちによって各駅に独自のデザイン設計がなされていた。

Legion Media
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 フルシチョフ政権になると、建設のスピードアップに重点が置かれ、「過剰な装飾」をやめることになった。1960年代に建設された地下鉄駅は、はるかに簡素なスタイルである。

6. 運行間隔は記録的短さ

ラミル・シトディコフ/Sputnik
ラミル・シトディコフ/Sputnik

 モスクワを訪れる外国人は地下鉄の華麗さだけでなく、その運行間隔の短さにも驚く。列車の平均的な運行間隔は、わずか2.5分!ラッシュ時には90秒間隔にまで短縮される。世界的に見ても、これは記録的な速さだ。

7. 第二次世界大戦中は防空壕として利用

 90年の歴史を持つモスクワ地下鉄だが、1日だけ運休した日がある。1941年10月16日、ドイツ軍がモスクワ近郊の危険な距離まで迫ってきた時だ。カガノーヴィチは戦略施設である地下鉄の破壊計画を準備していた。しかしモスクワはパニック状態に陥っていたため、計画は中止された。同日夜には、列車の運行が再開された。

アルカディ・シャイケット/Sputnik
アルカディ・シャイケット/Sputnik

 空襲中も地下鉄は運行を続けた。一部の駅は防空壕として利用され、駅で夜を明かす市民もいた。また、新設工事は戦時中も続き、新しい駅も開業している。

8. 一部の駅の壁には、太古の化石が

paleometro.ru
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 駅や通路の壁と円柱には、自然石の外装材が使われている。こうした石の壁面を注意深く見てみてると、表面に太古の生物の痕跡を発見できる。オウムガイやアンモナイト、ウミユリ、さまざまな腕足類や腹足類の殻などだ。モスクワ地下鉄内にはこうした古代化石が700以上あり、その多くは約7000万年前から3億年前の生物である。中でも特に良質なものについては、こちらのギャラリーにまとめてある

9. アナウンスは男女の声で

 駅名のアナウンスは、男性の声と女性の声の両方があるのにお気付きだろうか。これは視覚障碍者の誘導のために行われている工夫である。

Y. イヴァンコ/Mos.ru 首都交通の声:地下鉄アナウンサー、ユリア・ロマノヴァ=クチイナ、アレクセイ・ロッソシャンスキー
Y. イヴァンコ/Mos.ru

 郊外方面から中心地へ向かう列車では、男性の声。中心地から郊外方面へ向かう列車では、女性の声のアナウンスとなっている。環状線では、時計回りが男性、反時計回りが女性の声でアナウンスされている。

10. 地下鉄には独自のTVと新聞がある

イリヤ・ピタレフ/Sputnik モスクワ・メトロのトゥルスカヤ駅、ロシア郵便事業の歴史に捧げられた地下車両にいる少女。
イリヤ・ピタレフ/Sputnik

 車内でも乗客は退屈しないだろう。スマホがバッテリー切れになっても(ちなみに、充電もできる)、車両備え付けのモニターでモスクワ地下鉄が運営しているTVが見られる。モスクワ関連のニュースや、歴史雑学、クイズなどを放映。地下鉄の入口と出口付近では、無料の日刊紙 Metro が配布されている。ニュースや文化関連の広報、有名人のインタビューやスポーツ論評を掲載しているオリジナル紙だ。

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